コンテンツ
- 1 1)ワイン
- 2 2)ワインの分類
- 3 3)ワインの栽培面積及び消費量(2021年)
- 4 4)EU新ワイン法による品質分類
- 5 5)ラベル表示
- 6 6)ワイン産地による主な気候
- 7 7)ブドウ品種
- 8 8)シノニム
- 9 9)ブドウ果実
- 10 10)ブドウ生育作業(北半球)
- 11 11)収穫
- 12 12)栽培条件
- 13 13)ブドウ品種の選抜・交雑
- 14 14)主な病虫害・生理障害
- 15 15)ブドウの栽培方法
- 16 16)各種ブドウ栽培
- 17 17)ワイン醸造法
- 18 18)赤ワインの醸造法概論
- 19 19)白ワインの醸造法概論
- 20 20)赤、白の醸造過程
- 21 21)ロゼワインの醸造法概論
- 22 22)オレンジワインの醸造法
- 23 23)スパークリングワインの製造
1)ワイン
(1)ワイン総論
・ワインとは、ブドウ果実を原料として醸造した酒類のこと。
・ワインは、ビールや日本酒のように糖化させてからアルコール発酵させる必要がなく、ブドウの水分と糖分から直接アルコール発酵するのでブドウの性質が製品に強く反映する。
・1kgのブドウから搾汁される果汁は600mlから800ml
・フランスの生化学者ルイ・パスツール(Louis Pasteur)は、酵母による発酵メカニズムを解明した。
(2)ワイン中の主な有機酸
ブドウ由来の酸:酒石酸、リンゴ酸、クエン酸
発酵由来の酸:コハク酸、乳酸、酢酸
貴腐ワインに含まれる酸:グルコン酸、ガラクチュロン酸
(3)ワインの香り
第1アロマ:原料のブドウに由来するアロマ
第2アロマ:発酵工程で酵母や乳酸菌によって生成されるアロマ
第3アロマ:発酵終了後の熟成などによって生じるアロマ
(4)ワインの効能
・赤ワインの含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロール(Resveratrol)は抗がん作用があるとされている。
(5)アルコール代謝
・アルコールのほとんどが肝臓によってアセトアルデヒドに変換される。
・アセトアルデヒドは、顔面紅潮や頭痛、吐き気の原因となる。
・アセトアルデヒドには発がん性があるとされている。
2)ワインの分類
(1)スティルワイン(Still Wine)
・炭酸ガスによる発泡性を呈さないワイン
・アルコール分9から15度
・赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、オレンジワインの4種類ある
(2)スパークリングワイン(Sparkling Wine)
・発泡性のワイン(ガス気圧3気圧以上のもの)
・日本の酒税法では「20℃におけるガス圧が49kpa(キロパスカル)以上の炭酸ガスを含有する酒類」とされている。
・発泡性ワインの例 ヴァン・ムスー Vin Mousseux(フランス)、スプマンテ Spumante(イタリア)、シャウムヴァイン Schaumwein(ドイツ)
・弱発泡性ワイン(ガス気圧3気圧以下のもの)
・弱発泡性ワインの例 ペティヤン Pétillant(フランス)、フリッツァンテFrizzante(イタリア)、ペールヴァイン Perlwine(ドイツ)
(3)フォーティファイドワイン(Fortified Wine)
・酒精強化ワインのこと
・発酵中にブランデーまたは40から80度程度のアルコールワインを添加して発酵を止めて造ったワイン
・ワインのアルコールは15から22度程度
・アルコールを途中で加えることにより、発酵が途中で止まるためブドウ由来の糖分がワインに残る(ミュタージュMutage)。
・アルコールなどの添加時期により残糖分に差が出る
・味にコクや厚みが出て、保存性が高まる
・例 シャリー Sherry(スペイン)、ポルトPort(ポルトガル)、マディラMadeira(ポルトガル)、マルサラMarsala(イタリア)、V.D.N.・V.D.L.
(4)フレーヴァードワイン(Flavored Wine)
・ワインに薬草、果実、甘味料、エッセンスなどで香り付けをした混成酒
・例 ヴェルモットVermouth(フランス・イタリア)、リレLillet(フランス)、レチーナRetsina(ギリシャ)、サングリアSangria(スペイン)
3)ワインの栽培面積及び消費量(2021年)
(1)世界のブドウ栽培面積と生産量
・栽培面積約730万ha
・ワイン生産量約2.61億hl
(2)国別ワイン生産順位
1位 イタリア
2位 フランス
3位 スペイン
4位 アメリカ
5位 オーストラリア
6位 チリ
7位 アルゼンチン
8位 南アフリカ
9位 ドイツ
10位 ポルトガル
(3)国別年間ワイン消費量順位
1位 アメリカ
2位 フランス
3位 イタリア
4位 ドイツ
5位 イギリス
6位 中国
7位 ロシア
8位 スペイン
9位 アルゼンチン
10位 オーストラリア
4)EU新ワイン法による品質分類
(1)総論
2009年発行されたEU新ワイン法によれば「地理的表示ワイン」と「地理的表示なしワイン(V.S.I.G.)」に大別され、「地理的表示ワイン」はさらに「原産地呼称保護(A.O.P.)」と「地理的表示保護(I.G.P.)」に分かれる。
「地理的表示ワイン」とはブランドのこと。産地が限定されるごとにブランド力が上がる。
例:お米の場合
日本産>新潟県産>魚沼産
ワインの場合
V.S.I.G.>I.G.P>A.O.P.
(2)A.O.P.(原産地呼称保護)
各国ごとに名称が異なる。
A.O.P.(アペラシオン・ドリジーヌ・プロテジェ Appellation d’Origine Protegee)
フランスA.O.P.(A.O.C.) イタリア、スペイン、ポルトガルD.O.P. ドイツg.U. アメリカA.V.A. 日本G.I.
(3)I.G.P(地理的表示保護)
I.G.P(アンディカシオン・ドリジーヌ・ジオグラッフィック・プロテジェ Indication Géographique Protégée)
フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルI.G.P ドイツg.g.A アメリカP.G.I.
(4)V.S.I.G.(地理的表示なしワイン)
V.S.I.G.(ヴァン・サン・アンディカシオン・ジェオグラフィック Vin Sans Indication Géographique)
フランスVin de France イタリア、スペインVino ポルトガルVinho ドイツWein
5)ラベル表示
(1)義務記載事項
・製品のカテゴリー 例 ワイン
・A.O.P. I.G.Pワインの場合その表示及び名称 例:A.O.P. Médoc
・アルコール度
・原産国
・瓶詰め業者名(スパークリングワインの場合は生産者と販売業者名)
・残糖量(スパークリングワインの場合)
(2)任意記載事項
・収穫年(ヴィンテージVintage)
収穫年を記載する場合は、85%以上その収穫年のブドウを使用する必要がある。
・原料のブドウ品種
単一でブドウ品種名を表示する場合は85%以上使用する必要がある。
2種類以上のブドウ品種名を表示する場合は使用されている量の多い順から表示し、各品種の合計が100%になる必要がある。
・ボトルの容量
・A.O.P.等のシンボルマーク
・生産方法
・残糖量の表示(スパークリングワイン以外)
6)ワイン産地による主な気候
(1)大陸性気候
・昼夜の気温差と夏と冬の気温差が大きい。
・季節の違いがはっきりしている。
・収穫年に差が出やすい
・ピノ・ノワールやシャルドネの栽培に適している
・フランスのシャンパーニュ、ブルゴーニュなど
(2)海洋性気候
・海に近く温暖である。
・降水量が多く湿度が高い。
・カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローの栽培に適している
・フランスのボルドーなど
(3)地中海性気候
・夏は日照に恵まれ乾燥し、冬は雨量が増え湿度が高い。
・温暖
・ブドウの生育期間中に雨量が少ないため病害も少なく、安定して成熟期を迎えることができる。
・シラーやグルナッシュの栽培に適している
・イタリアやスペイン、カリフォルニア州など
(4)山地気候
・標高が高い栽培地域(500から1000m)のため気温は低く天候による変化が大きい
・昼夜の温度差が大きい
・風が強い
・畑の位置や傾斜の違いにより気温や日照量、降水量の違いが大きい
・マスカットベリーA、甲州、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベック
7)ブドウ品種
(1)ヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera)
・欧・中東系種
・「ワインを造るブドウ」という意味
・コーカサス地方原産
・フィロキセラ耐性がない
・世界のワイン用のブドウはほぼヴィティス・ヴィニフェラ種に含まれ1000種類以上ある
・実際にワイン用として使用されるのは約100品種
(2)ヴィティス・ラブルスカ(Vitis labrusca)
・北米系種
・北米大陸原産
・湿った気候に適している
・耐病性に強い
・フォキシーフレーヴァーという独特の香りがある
・大半は生食やジュースに用いられる
(3)ヴィティス・アムレンシス(Vitis amurensis)
・東アジアを中心に自生する
(4)ヴィティス・コワニティ(Vitis coignetiae)
・日本で自生する山ブドウ
8)シノニム
ワインにおけるシノニムSynonymとはブドウ品種の別名
例 ピノ・グリ(Pinot Gris)フランス = ピノ・グリジオ(Pinot Grigio)イタリア
ピノ・ノワール(Pinot Noir)= ピノ・ネーロ(Pino Nero)イタリア
シラー(Syrah)フランス = シラーズ(Shiraz)オーストラリア
グルナッシュ(Grenache)フランス = ガルナッチャ(Garnacha)スペイン
プリミティーヴォ(Primitivo)イタリア = ジンファンデル(Zinfandel)アメリカ
9)ブドウ果実
図 1
10)ブドウ生育作業(北半球)
表 2
生育状況 | 栽培作業 | 備考 | ||
休眠 | 11〜12月 | 休眠 | 土寄せ 仏:ビュタージュ(Buttage)=アポール・ド・テール(Apports de terre) 英:ヒリング(Hilling) | |
1〜3月 | 剪定 仏:タイユ(Taille) 英:プルーニング(Pruning) | |||
萌芽→展葉 | 3月 | 樹液の溢出(いつしゅつ:あふれでる) 仏:プルール(Pleurs) 英:サップ ブリーディング(Sap bleeding) | ||
萌芽 仏:デブールマン(Débourrement) 英:バッドバースト(Budburst) | 10℃以上で萌芽 | |||
4月 | 畝(うね)くずし 仏:デビュタージ(Débuttage) 英:ディヒリング(Dehilling) | |||
5月 | 展葉 仏:フイエゾン(Feuillaison) 英:リーフグロウス(Leaf growth) | |||
つぼみ 仏:ブルジョン・ア・フルール(Bourgeon à fleur) 英:インフロレッセンス(Inflorescence) | ||||
6月 | 開花 仏:フロレゾン(Floraison) 英:フラワリング(Flowering) | 夏季剪定 仏:ロニュージュ(Rognage) 英:サマー ブルーニング(Summer pruning) | ||
結実 仏:ヌエゾン(Nouaison) 英:フルーツ・セット(Fruit set) | 新梢の固定 仏:アコラージュ(Accolage) 英:タイイング(Tying) | |||
色付き | 7〜8月 | 着色期 仏:ヴェレゾン(Véraison) 英:ヴェレゾン(Veraison) | ・色付きから成熟40日 ・開花から収穫100〜110前後が目安 | |
8〜9月 | 成熟 仏:マチュリテ(Maturité) 英:ライプニング(Ripening) | |||
9〜10月 | 収穫 仏:ヴァンダンジュ(Vendange) 英:ハーベスト(Harvest) |
11)収穫
収穫には手摘みと機械摘みがある。
(1)手摘みの長所
・傷つき(酸化)防止
・選果
・機械で収穫できない場所での収穫が可能
(2)手摘みの短所
・労働コスト
・熟練者の手配が困難
・作業時間が長くなる
12)栽培条件
(1)栽培地域
・赤道中心に北緯及び南緯30〜50度をワインベルトという
(2)気温
・平均気温 10〜20℃(ワイン用ブドウは10〜16℃が最適)
・年平均9℃以上
・四季があり気温サイクルあることが望ましい
・開花期15〜25℃
・成熟期20〜25℃(昼夜の寒暖差があるのが望ましい)
(3)日照
・生育期に必要な日照時間1000から1500時間
・北向きより南向き(北半球の場合)の斜面が望ましい
(4)水分
・年間降水量500から900mm
・生育期には十分な降雨が望ましいが、開花から収穫に過度な降雨はブドウの成熟に好ましくない
(5)土壌
・水はけが良く、痩せた土地(砂利やが望ましい
・窒素、リン、カリウムなどのミネラル成分が必要
13)ブドウ品種の選抜・交雑
(1)セレクシオン・クローナル Selection Clonale
・遺伝的に同一(クローン)のブドウの木を選択し、それを増やす方法のこと。
・挿し木で増やす
(2)セレクシオン・マッサル
・畑残対から良質な木を選ぶ方法
・遺伝子の多様性が見込まれる
(3)フィロキセラ対策
・19世紀の三大病虫害(ベト病、ウドンコ病、フィロキセラ)
・フィロキセラは土の中のブドウの根に対する虫害
・ジュール・エミール・プランション博士はアメリカ原産のブドウリバリア種、ルベトリス種、ベルランディエリ種の根にフィロキセラの耐性があることを発見、これらのブドウを台木としてヴィティス・ヴィニフェラの枝を穂木として接ぎ木した苗を植えることでフィロキセラの被害を沈静化させた。
・19世紀後半のフランスワインの生産量の3分の2がフィロキセラによって失われ多くのワイナリーが廃業に追い込まれた。
14)主な病虫害・生理障害
(1)ウドンコ病
・北アメリカ由来のカビ
・新芽に白い粉状の斑点を形成する。
・果粒はミイラ化する
・対策方法として硫黄を含む農薬の散布やベンレート(ベノミル)剤による殺菌が行われる
・1850年頃ヨーロッパに伝播
(2)ベト病
・白いカビ状の胞子により落葉、落花、落果する
・19世紀後半にアメリカのブドウから伝播
・1878年ヨーロッパで発見
・対策としてボルドー液(硫酸銅+生石灰+水)の散布
(3)灰色カビ病
・ボトリティス・シネレア菌の影響で、灰色のカビが生じ、不快なカビ臭がつく
・乾燥した状態で完熟ブドウに付くと貴腐になる
・対策としてイプロジオン水和剤の散布
(4)晩腐病
・収穫期の暴動果実を侵し、腐敗・ミイラ化させる
・日本における病害では被害が最大
・対策としてベントレー剤の散布
(5)エスカESCA
・ローマ時代の文献に記載が見られる
・最も古くからあるカビによる病気
・効果的な対策が確立されていない
15)ブドウの栽培方法
(1)垣根仕立
・針金と柱を用いて結果枝(実がなる枝)を地面と垂直に伸ばす仕立て方
・フランスのボルドー、ブルゴーニュ、ドイツ、イタリアなどで用いられている
・長梢剪定(ちょうしょうせんてい)をギヨ・ドゥーブルといい19世紀にフランスのジョージル・ギヨ博士が広めた剪定方法
・短梢剪定(たんしょうせんてい)をコルンド・ロワイヤルという
(2)棒仕立
・針金で垣根を張ることのできない急斜面に適している
・フランスのローヌ地方北部、ドイツのモーゼル地方で用いられている
(3)株仕立
・新梢が伸びすぎない乾燥地で用いられている
・南フランス、スペイン、ポルトガルなど
・フランス語でゴブレという
(4)棚仕立
・降雨量の多いところや日差しの強いところで用いられている
・日本、イタリア、ポルトガル、エジプト
・生食用ブドウに適用されることが多い
・フランス語でペルゴラと言う
16)各種ブドウ栽培
(1)有機農業
・日本では「有機農業の推進に関する法律」において、「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」と定義している。
・国際的な認証団体で最大は1991年に設立されたエコーセル(本拠地フランス トゥールーズ)
(2)有機ワイン
・法律上「有機ワイン」と表示出来る条件
①有機農業により栽培されたブドウを用いる
②すべての製造ラインで有機ワインではないものと隔離されたもの
③公的機関の認証を受けたワイナリーにおいて生産されたもの
・日本では「有機農畜産物加工酒類」または「有機農産物加工酒類」と表示される
・EUでは2012年にVin Biologique(有機ワイン)について規定が制定され基準を満たしたワインには、共通ロゴとVin Biologiqueと表示出来る
(3)ビオディナミ
・人智学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した農法
・循環型農業の側面を持ち、農事暦活用し、植物がもつ生命力を自然界のエネルギーで活性化し、安定した農業生産を目指す
・月や惑星の動きと植物の成長を調和させることを重視した農事暦を用いた栽培スケジュールや農薬を使用せずにプレパラシオンと呼ばれる調合材を利用する
(4)減農薬栽培
・「農薬の必要性は認めた上で、その使用量を最小限にとどめる」という考え方に基づく栽培方法(フランス語でリュット・レゾネ)
・「リュット=戦い レゾネ=リーズナブルな」の意
17)ワイン醸造法
(1)ワインの醸造法総論
A.酵母
・ブドウの中に含まれている糖分が酵母によりエタノールと炭酸ガスに分解されることでワインになる。
・サッカロマイセス・セレビシエに分類される酵母が、アルコール発酵を行う。
・酵母には、ブドウは高濃度の糖と高い酸を有するため、これらの特性に耐性を持つ必要がある。
・ワイン醸造では人工的に造られた培養酵母(乾燥酵母)と醸造所の環境中にいる土着酵母(自然酵母)で造られる。
B.亜硫酸(二酸化硫黄)
・亜硫酸は破砕時、熟成時、瓶詰め前に添加されるのが一般的
・亜硫酸の添加の目的は酸化防止
・亜硫酸には殺菌作用もあるので、酵母や細菌の活動を抑制する
(2)貯蔵容器
A.ステンレスタンク
・熱伝導率が高いため温度管理が容易
・殺菌がしやすく衛生管理が容易
B.コンクリートタンク
・木桶と同様保温性が良い
・木桶より殺菌や清掃が容易
C.木樽
・オーク材で造られたオーク樽が多い
・保温性に優れている
・バリック(Barrique):225L 主にボルドーで使用されている。
・ピエス(Pièce):228L 主にブルゴーニュで使用されている。
・樽発酵:樽の中に果汁を入れて発酵させる工程、発酵後は澱引きしない状態で樽育成されることが多い。
・樽育成:セラーで1〜2年間育成する
・樽育成の効果
酸素との接触
樽成分の抽出(タンニンやココナッツ香)
清澄化促進
赤ワインの色調の安定化
フェノール成分の重合(一つの化合物の二個以上の分子が結合して、幾倍かの分子量の新たな化合物となる反応)による沈殿
風味の複雑化
D.素焼き壺(アンフォラ Amphore/クヴェヴリ Qvevri)
・紀元前から醸造や貯蔵に用いられてきた。
・ワイン用に使われる素焼き壺を一般的にアンフォラというが、ジョウージアでは伝統的にクヴェヴリと呼んでいる。
(3)クロージャー(Closure)
A.コルク栓(仏ブションBouchon)
・天然コルクの供給は1位ポルトガル、2位スペイン
・天然コルクの原料はコルク樫の樹皮をはいだもの
・天然コルクによるカビ臭い、湿った段ボール臭をコルク臭(ブショネ)という。
・天然コルクを砕いて合成樹脂で成形したものを圧搾コルクという。
・圧搾コルクは、ブショネの発生率を低く抑えることができる。
・ブラスティックなどの合成樹脂のみで成形したものを合成コルクという。
B.スクリューキャップ
・スクリューキャップとボトルが触れる部分にリーネル(ライナー Liner)と呼ばれるクッション材がある。
・スクリューキャップの利点
開けやすく、再度栓をするのが容易
ブショネが発生しない
コルクのクズが瓶内に入らない
18)赤ワインの醸造法概論
・黒ブドウから作られる
・果皮と種子を木桶やタンクのなかで一緒に発酵させたあと、液体(赤ワイン)と果皮・種子を分離するのが特徴である。
・赤ワインは醸しを行うため、ブドウの果皮と種子に多いポリフェノールが沢山抽出されることになる。
19)白ワインの醸造法概論
・白ワインは白ブドウだけでなく、黒ブドウからも造ることができる
・果皮、種子を分離し、果汁のみを用いて造られる。
・醸しは行わない。
20)赤、白の醸造過程
表 3
赤ワイン | 白ワイン | |
収穫 仏:ヴァンダンジュ (Vendange) 英:ハーベスト(Harvest) | ・痛んだ粒を取り除く | ・痛んだ粒を取り除く |
選果 仏:トリアージュ・デ・レサン( Triage des Raisins) 英:ソーティング(Sorting) | ・選果台の上をブドウが移動する間に)望ましくないブドウを取り除く ・徐行した後行う場合もある | ・選果台の上をブドウが移動する間に)望ましくないブドウを取り除く ・酸化のリスクが高まる粒での選果は少ない |
破砕 仏:フーラージュ(Foulage) 英:クラッシュ(Crush) 除梗 仏:エグラバージュ(Égrappage) 英:ディステム(Destem) | ・果梗を取り除き(除梗)ブドウの実を潰す(破砕) ・酸化防止のため二酸化硫黄(亜硫酸)を加えることもある ・徐梗を行わずに房ごと圧搾する全房圧搾(ホールバンチプレス)をする場合もある | ・果梗を取り除き(除梗)ブドウの実を潰す(破砕) ・酸化防止のため二酸化硫黄(亜硫酸)を加えることもある ・徐梗を行わずに房ごと圧搾する全房圧搾(ホールバンチプレス)をする場合もある |
圧搾 仏:プレシュラージュ( Pressurage) 英:プレス(Press) | 行わない | ・果汁の重みにより流れる果汁をフリーラン果汁と呼ぶ。 フリーラン果汁を搾り取った後に圧力をかけて得られるワインをプレス果汁と呼ぶ。 ・果汁を低温で数時間ほどおいて不純物を沈殿(デブルバージュDébourbage)させた後、上澄み部分の果汁を別のタンクに移す |
主発酵 仏:フェルマンタシオン・アルコリッ(Fermentation Alcoolique) 英:アルコリュック ファーメンテーション(Alcoholic Fermentation) | ・ブドウの果汁、果皮、果肉、種子(場合により果梗も)の混合物である果醪(かもろみ)を木桶やタンクに入れ酵母を加える ・主発酵が始まると、果醪中の糖分は酵母によって代謝され、アルコールと二酸化炭素に分解される ・発酵温度は30℃前後 ・ワインのアルコール分を高めるため補糖(シャブタリザシオン Chaptalisation)されることがあるが、地域や収穫年により制限がある ・シャプタリザシオン(Chaptalisation)は化学者ジャン・アントワーヌ・シャプタルに由来 ・補糖はワインに甘味を付けるためではなく、アルコール分を高めるために行う | ・デブルバージュ(Débourbage)を行ったブドウ果汁を木樽やタンクに入れて酵母を加える ・主発酵が始まると、果醪中の糖分は酵母によって代謝され、アルコールと二酸化炭素に分解される ・醗酵温度は20℃前後 ・補糖される場合がある |
醸し 仏:マセラシオン( Macération ) 英:マセラシオン(Maceration) | ・アルコール醗酵中およびその前後期間に果皮から赤い色素であるアントシアニン、種子から渋味成分のタンニンを抽出する工程 ・アルコール発酵で生じた二酸化炭素の力により果皮、果肉、種子が果醪上部に浮上し、果帽(シャポー・ド・マール)を形成 ・果帽部分の温度調節・成分抽出などを目的として、タンクの下から醗酵中の果醪液を抜いて、上から全面に渡り散布する作業(ルモンタージュ Remontage)を行う ・ルモンタージュ(Remontage)の効果として果醪液への酸素供給、糖分、酵母、温度の平均化、果皮・種子からフェノール類その他の成分の抽出がある ・発酵タンクの容量が小さい場合はルモンタージュではなく人力による櫂(かい)つき(ピジャージュ Pigeage)を行うワイナリーも多い ・長期熟成タイプの赤ワインを造るときは、醸しの期間を長くする | 行わない |
圧搾 仏:プレシュラージュ( Pressurage) 英:プレス(Press) | ・タンクの下からワインを抜き取り、液体(ワイン)と個体(果皮・種子)を分離させ、固体部分を圧搾機にかけ、さらに液体を得る ・ワイン自身の重さと、果帽の重みにより引き抜かれるワインを「フリーランワイン」という ・その後圧搾したワインを「プレスワイン」という | 行わない |
マロラクティック醗酵 M.L.F. 仏:フェルマンタシオン・マロラクティック(Fermentation Malolactique) 英:マロラクティック・ファーメンテーション(Malolactic Fermentation) | ・主発酵中や後に果汁やワイン中に含まれるリンゴ酸(マリック・アッシド)が、乳酸菌の働きによって乳酸(ラクティック・アッシド)と炭酸ガスに分解される ・副生成物として、ヨーグルトなどの乳製品の香りをもつ「ダイアセチル」が生じる ・マロラクティック醗酵の効果 ワインの酸味がやわらげられ、まろやかになる ダイアチセルなどの香りにより複雑性が増し、豊潤な香味を形成する リンゴ酸がなくなることで、瓶詰め後のワインの微生物学的安定性が向上する ・アルコール発酵が終わった赤ワインは基本的にを行う ・白ワインの場合はフレッシュな酸味が特徴のソーヴィニョン・ブランやリースリングでは行わない ・シャルドネは行うことも多い ・タンクで行う場合と樽で行う場合がある | ・白ワインの場合はフレッシュな酸味が特徴のソーヴィニョン・ブランやリースリングでは行わない ・シャルドネは行うことも多い ・行わない場合もある |
育成 仏:エルヴァージュ( Elevage) 英:エイジング(Aging) | ・樽またはタンクに移し替えて1〜2年育成する ・樽で育成する場合は、ワインが一定量蒸発するため定期的に補填(ウイヤージュ)を行う | ・育成中にタンクや樽の底に溜まった澱を攪拌(バトナージュ Bâtonnage)し、酵母との接触を増やし、酵母に含まれるアミノ酸などのうま味成分をワインに行こうさせる作業を行う場合がある |
滓引き 仏:スーティラージュ (Soutirage) 英:ラッキング(Racking) | ・滓(リー Lie) ブドウ由来のペクチンやポリフェノール、酒石などの混合物が沈殿するので、上澄みを別の容器へ移し替える ・タンクや樽での貯蔵・育成中に数回行う | 赤ワインと同じ |
清澄 仏:コラージュ( Collage) 英:ファイニング(Fining) | ・ワインの透明度を上げるため、必要に応じて清澄剤を使用する ・清澄剤には卵の卵白、ベントナイトなどが使われる ・ボルドーでは黄身を使って作るカヌレというお菓子が有名 | ・清澄剤にベントナイトなどが使われる |
ろ過 仏:フィルトラージュ( Filtrage) 英:フィルトレーション(Filtration) | ・瓶詰めに先立ちシートろ過器などを用いてワインをろ過する ・ろ過しない場合もある | 赤ワインと同じ |
瓶詰め 仏:アンブティヤージュ(Embouteillage) 英:ボトリング(Bottling) |
21)ロゼワインの醸造法概論
(1)(セニエ法 Saignée)
・セニエとは血抜きの意味
・黒ブドウを使用して除梗・破砕後、赤ワインと同じように果皮と果実を短時間漬け込む
・果汁に色が付き発酵または醸しの少し前にタンク下部から果汁を抜く
・色が濃く、タンニンが豊富なロゼワインになる
(2)ロゼワイン(直接圧搾法 Pressurage direct)
・黒ブドウを使用して、白ワインと同じ製法で造ったロゼワイン
・白ワインと同じように果汁のみを発酵させる。
・フリーラン果汁からはセニエ法と同じくらいの色合いになる
・プレス果汁からは濃い色のロゼワインが造られる。
・白ワインに近い個性をもつワインになる。
(3)混醸法
・黒と白のブドウを混ぜて醸造して造ったロゼワイン
・ドイツのロートリングが有名
出典:エノテカ
https://www.enoteca.co.jp/article/archives/394/
22)オレンジワインの醸造法
・狭義では「白ブドウを破砕し、果皮と種子を漬け込んで発酵したオレンジ色のワイン」とされている。
・広義では「白ブドウやグリブドウ(果皮がピンク色のブドウ)を破砕し、果皮と種子を漬け込んで醗酵したオレンジ色のワインの総称」とされている。
・白ブドウを果皮接触させたうえで圧搾し発酵させる方式と果皮接触をさせたまま発酵させる2方式がある
出典:エノテカ
https://www.enoteca.co.jp/article/archives/21287/
23)スパークリングワインの製造
(1)トラディショナル方式(Méthode traditionnelle)
・スティルワインを瓶に詰め、糖分と酵母(リキュール・ド・ティラージュ)を添加して瓶内二次発酵を行う方式
・フランスのシャンパーニュ(Champagne)、ドイツのフラシェンゲールング(Flaschengarung)、イタリアのメトード・クラッシコ(Methodo classico)、スペインのカヴァ(Cava)はこの方式
・シャンパーニュ方式とも言われている
・澱引きを瓶ごとに行う
(2)シャルマ方式(Méthode charmat)
・スティルワインをタンクに入れ、糖分と酵母(リキュール・ド・ティラージュ)を添加して二次発酵を行う方式
・短期間で製品化が行える
・澱引きがタンクごとで行える
・イタリアのアスティ・スプマンテ(Asti Spumante)がこの方式
(3)トランスファー方式(Méthode de transfert)
・瓶内二次発酵を行ったワインをタンクに移し、まとめて澱引きを行い、新しい瓶に詰め替える方式
(4)田舎方式(メトード・リュラル Méthode rurale)
・一次発酵途中で瓶に詰め、そのまま打栓して瓶内発酵を行う方式
・二次発酵のときに加える糖分と酵母の添加は行わない。
(5)炭酸ガス注入方式(カーボネイティッド・スパークリングワイン)
・スティルワインに炭酸ガスを吹き込む方式
(6)各国のスパークリングワイン
A.フランス
・ヴァン・ムスー(Vin Mousseux):シャンパンを含め発泡性ワインの総称
・ペティヤン(Petillant):ガス気圧が1〜2.5気圧、弱発泡性ワインのこと
・クレマン(Crémant):シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵による伝統的な製造方法で造られたスパークリングワイン
B.ドイツ
・シャウムヴァイン(Schaumwein):ドイツの発泡性ワインの総称
・ゼクト(Sekt):厳しい規定が定められているドイツの発泡性ワインのこと。ゼクトのなかにもドイチャー・ゼクト(Deutscher Sekt)、ゼクトb.A.(Sekt b.A.)
C.イタリア
・スプマンテ(Spumante):イタリアの発泡性ワインの総称
・プロセッコ(Prosecco):ヴェネト州で造られるイタリアの発泡性ワイン
D.スペイン
・エスプモーソ:スペインの発泡性ワインの総称
・カヴァ:シャンパーニュと同じ伝統的な製法で造られるスペインの発泡性ワイン